コンデンサーの役割は2つ。ひとつは電源回路に居て直流電流を溜ながら交流電流を回路に供給する役目。もう一つは信号回路にあって,周波数弁別のために電流を積分して電圧に変換しつつ流れる電流を制御する役割。電流をよどみなく流すことを期待されている素子です。果たして完璧に役割をこなすことができているのでしょうか。それとも奇妙な歪みが起きるのでしょうか。コンデンサーの種類としては,電解コンデンサーとそれ以外だと,絶縁材料の違いで,無機材料系の誘電体材料と有機系の誘電体材料が有ります。それぞれの系統について見ていきましょう。
電解コンデンサー /アルミ電解コン,導電性高分子,タンタルコン,etc.

電源回路に必ず使われているのが電解コンデンサーです。回路に直接電流を供給する素子なので,静電容量が大きくなくてはいけません。しかし,不必要に大容量の素子を使うと音が悪くなると云う先人の教えも有りました。
アルミ電解コンデンサーがもっとも一般的で多く使われてきましたが,最近では導電性高分子を使った物をよく見かけます。音がいいという判断なのでしょうか。また,古くはタンタル電解コンデンサの話も聞きました。航空宇宙関係では絶対的存在のようですが。
最近驚いたのは,古本屋さんで昔の雑誌を手にして見たコンデンサーの広告です。何と松下電器が出した,湿式タンタルコンデンサーの1頁広告が掲載されていました。昔のオーディオマニアは,こんな高級な部品を普通に使っていたのでしょうか。
電源に入れたコンデンサーが奇妙な歪みを発生していたら,どんなことになるでしょう。出力電流は電源のコンデンサーから供給されているので,全ての音声信号が奇妙な歪みの影響を受けることになります。実際,電源回路に使われる多くのコンデンサーは奇妙な歪みをたくさん発生しています。
無機材料系のコンデンサー /セラミックコン,マイカコン

無機材料系の誘電体を用いたコンデンサーとしては,セラミックコンデンサーとマイカコンデンサーがよく知られています。
オーディオ回路にはセラミックコンデンサーは余り使われないような気がします。特に誘電率の高いセラミック材料を用いた素子はオーディオ用には適しません。しかし,低誘電率の温度係数が優れたクラスのセラミックコンデンサーは,高性能だという主張も有ります。
マイカコンデンサーは昔ほど使われなくなり入手性も良く有りません。しかし,音響用としては人気があります。奇妙な歪みの発生は小さいのか,興味のあるところです。果たしてどうなのでしょうか。
左のグラフは440Hzの正弦波を印加して,C0G型のセラミックーで発生する歪みを測定した例です。3次歪みが特徴的に現れていますが,2次歪みは小さいようです。3次歪みは印加電圧の3乗で増加しています。この増加の具合は,非線形性により生じている歪みの特徴をよく表しています。
有機材料系のコンデンサー /PE, PP, FE, etc.

有機材料系の誘電体を用いた素子は,いわゆるフィルムコンデンサーとして広く使われています。フィルムの材料としてはポリエチレン,ポリプロピレンが多く,特殊なものとしてはポリスチレンやテフロン系のフィルムを用いたものもあります。電極材料も二系統あり,蒸着膜を使った物と,金属箔を使った物が有ります。
近年,高電圧高周波スイッチング電源回路の普及により,500V以上の高電圧で大容量のフィルムコンデンサーが市場に出回っています。また,特に大電流パルス回路には金属箔を用いたコンデンサーも供給が進んでいます。一方で通信機器の世代交代により,スチコンは市場から消えつつあります。
単純に物理特性で云えば,誘電体として何がいいかとか,電極は箔がいいなどあるでしょう。しかし,音質に影響する歪み特性で云うと,まだ傾向は見えてきません。それなりに皆さん歪んでいるので。
ただ,注意しなければならないのは,電極を蒸着膜としたコンデンサーです。耐圧より極端に低い電圧を印加して使用すると,電流が漏れて発熱します。スピーカーのネットワーク回路に蒸着膜のフィルムコンデンサーを使うのは避けたいところです。
左のグラフはポリプロピレンフィルムコンデンサーの歪みを測った結果です。入力信号は1kHzの正弦波1Vrms。2倍3倍といった高調波歪みが僅かに出ているのが分かります。しかし,この程度の倍音であれば楽音に紛れてしまうでしょうし,耳に付くことも無いはずです。問題はここに隠れている奇妙な歪みの存在です。
今わかること

コンデンサーについても奇妙な歪みの具合は素子の種類によりさまざまです。歪みが大きな素子も有れば,比較的少ない素子もあります。
従来の測定では,低次の高調波歪み特性の大小しか測られていません。その測定の範囲では,スチコンが歪みが少ないと云われていました。しかし,低次の歪みでは楽器の倍音と完全に被るので,音質に差は生じないでしょう。素子の低次高調波歪みは0.01%も有りません。楽器の倍音は遙かに大きな割合を占めます。
コンデンサーは回路のどこに使うかによってその種類も限られます。電源には電源用のコンデンサーが必要で,音に与える影響も大きいので,正しい選択が必要です。奇妙な歪みの発生を低く抑えた素子を吟味することで,音は驚くほど変わります。データに基づいた取り組みを行うことで,オーディオ機器の音質を少しずつ改善することができます。
左の表は,9種類のコンデンサーを測定した結果です。奇妙な歪みの歪係数は暫定的に決めた計算方法で求めた値で,小さいほど歪みが小さいことを示しています。計算法の違いにより,左の数値より右の数値が大きくなります。